2020年5月6日水曜日

DMM.make で印刷したキーキャップでシリコン型を取ってみた

右端の4個が DMM.make で印刷したキーキャップ。その左側の着色キャップが UV レジンで複製したもの

KeyV2 をカスタマイズして逆 SA 風のキーキャップを作成し、3Dプリンタで印刷して、型を取ってUVレジンで複製し、キーボード1つ分のキーキャップを作ろうとしている。前々回

おゆまるでキーキャップを作ってみた

では、3D プリンタで出力したキーキャップの型取りをしてみた。だけど、FDM 方式の 3D プリンタだと、そもそもキートップ部分に積層痕が残ってしまい、指ざわが凸凹してしまう。側面はかなり綺麗に出来上がるんだけどね。

そこで DMM.make の出品を検索してみると、キーキャップセットもそこそこ出されていて、「MJF の PA12GB ブラック磨き」という素材がお薦めされていた。・・・と思っていたら、2020年の 3, 4月は、DMM.make で MJF の 20% オフキャンペーンが行われていたので、今がチャンス?!と思って試してみた。


1.親指用鞍型キートップ+いつものサイズで出力


KeyV2 では、キートップを凸に盛り上げるか、凹にくり抜くかを選べる。人差し指から小指までの4本については、キートップを凹ませておくと、指の位置が指先の感覚で分かってちょうど良い。

一方で、親指キーについては、キートップが凹んでいると、親指の横側面がへりの角に当たって、長時間使っていると少し痛くなってくる。そこで、親指キーキャップには、凸に盛り上げたものも試してみた。でも実際に使ってみると、親指への当たりは確かにかなり柔らかくなったんだけど、今度は、親指がキーの上でどこにいるのか、横方向の位置が分からなくなってしまった。

う〜ん、両者のいいとこ取りをして、鞍型がいいんじゃないか?!と思って OpenSCAD のドキュメントを探してみたけど、そのものズバリの関数はないようだ。


鞍型キートップ


そこで、鞍型面は二次曲面なので、円を並べて 凸包を取ることで、近似的に鞍型を実装してみた。

鞍型キートップ
OpenSCAD のソースコードはこちら。
https://github.com/orihikarna/KeyV2/blob/master/src/dishes/saddle.scad

gist-it.appspot.com の埋め込みでは綺麗に入らなかったので、コピペ(汗)

module saddle_dish(width, height, depth, inverted) {
    $fa = 4;
    direction = inverted ? 1 : -1;
    hdepth = depth / 2;
    radius = height * height / (8 * hdepth) + hdepth / 2;
    xdivs = 16;
    dx = 1 / xdivs;
    intersection() {
        translate( [-width, -height, depth * (direction - 1)] )
            cube( [2 * width, 2 * height, 2 * depth] );
        translate( [0, 0, - direction * radius] )
            union() {
                for (nx = [-1:xdivs-1+1]) {
                    x0 = -0.5 + dx * nx;
                    x1 = -0.5 + dx * (nx + 1);
                    hull() {
                        translate( [width * x0 - 0.01, 0, direction * hdepth * ((x0 * x0) * 4 + 1)] )
                            rotate( [0, 90, 0] ) cylinder( dx / 8, radius, center = true );
                        translate( [width * x1 + 0.01, 0, direction * hdepth * ((x1 * x1) * 4 + 1)] )
                            rotate( [0, 90, 0] ) cylinder( dx / 8, radius, center = true );
                    }
                }
            }
    }
}

これは何をしているかというと、まず Google Calculator で \(z=x^2-y^2\) という鞍型面を表す関数を描画してみる。

z=x^2-y^2 の鞍型面

ここで各 \(x=x_0\) を固定して y-z 面で見てみると、\(z=x_0^2-y^2\) という放物線になっている。

この放物線を円に置き換えて、x 軸方向に dx 間隔で並べて配置し、隣同士を hull() で閉じている。100円玉のような円板をたくさん重ねて、放物線の形に少しずつずらして並べたようなもの。あえて式で書くなら、\((z-x^2)^2+y^2=1\) となる。この上半分を同じようにプロットすると、

z=sqrt(1-y^2)+x^2

と、ここだけ見れば、鞍型面に近いものになっている。

あとは、幅と奥行きと高さの設定に合わせて、円の大きさや放物線の係数を調整すると、先ほどの scad コードになる。


DMM.make へ発注!


普段の 3D プリントでは軸のプラス穴のサイズ決めに一番苦労したので、DMM.make でも、まず、1.25mm、1.35mm、1.45mm の3種類で出してみた。違いが分かるように、キートップに、無印、○、ー、の刻印を入れておく。

発注した STL

PA12GB ブラック磨きで、1uが8個と1.25uが3個で3,403円。送料込みの固定費を除くと、1キー当たり100円前後のようだ。

1週間ちょいで到着したけど、到着前に、細いところが再現出来ませんでした、とのメールを受け取る。ふむ?と思ったら、普段の 3D プリンタ用のサポートが残ったままだった。でもこれはニッパーで切れば、問題なし!というより、こういう風に再現されるのかぁ、という感じ。細くてもそこそこ強度がある。

細すぎてクニャリと曲がったサポート

そして、出来上がりの全体像。

逆SA風なので、左側が上段キー

鞍型面の仕上がりはこんな感じ。

親指用 1.25u 鞍型キートップ

既に試していた通りの形だけど、キートップに積層痕がないので、より滑らかな指触り。


軸穴のサイズ


さてさて、では、キースイッチに取り付けてみると!?

どれもこれも軸穴がガバガバのスカスカで、まったく使い物になりませんでした(涙)

だけど、硬さがあり、重みもあり、肌触りも悪くなく、これで1つ当たり 100 円なら、全然アリだと思える仕上がり。この素材感には大満足!

ちなみに、軸穴のサイズをノギスで 0.05mm 単位で測ってみると、こんな感じだった。R0 と書いてあるのは親指キー。プラス穴の縦横幅を3パターン変えている。

  • 4.3mm x 1.25mm

キー長幅短幅
R04.401.35

  • 4.4mm x 1.35mm
キー長幅短幅
R04.501.40
R14.451.45
R24.501.45
R34.501.45
R44.451.45

  • 4.5mm x 1.45mm
キー長幅短幅
R04.551.50
R14.551.50
R24.551.55
R34.601.50
R44.601.50


軸部分は薄いからか、穴のサイズは常に広がる方向で、最大でも0.1mm 程度の広がりのようだ。


2.軸穴を攻める


ということで、次は軸穴サイズを変えてやり直し。プリンタが変わると調整やり直しなのは、まぁ仕方ないですね。

前回、1.25mm でも結構緩かったので、今回は、1.05mm、1.10mm、1.15mm、1.20mm の4パターンで出してみた。違いが分かるように、キートップに、無印、ー、=、≡ の刻印を入れておく。

上下向かい合わせにして空間費を節約(刻印は見えない)

今回も1週間ちょいで到着。

軸穴4パターン

軸穴はどうかと言うと、1.20mm と 1.15mm は、前回の1.25mm 程ではないけど、やはり緩い。1.10mm だとちょうど嵌るけど、若干緩いかも。1.05mm だと、ぐぐっと力を入れて押し込まないと入らない。

意外にも、1.10mm まで軸穴を細くしないと、緩かったようだ。スイッチによっても違いがあり、手元の Gateron の静音赤軸にはきつ目で、Kailh 系のスイッチには緩めのようだ。


初シリコン型取り!


そして今回は、このキーキャップを使ってシリコンで型取りし、UVレジンで複製を試してみた!初シリコンで、ブロックとか精密スケールとか真空容器とか色々手間取って面白い。

でも、その結果は・・・。

「PA12GB ブラック磨き」のブラック塗装がシリコン型にもレジンにも色移りして、薄紫色のキーキャップになりました(涙)

左下が DMM.make、上が黒が色移りした透明シリコン、中央下は緑着色レジン、右下はクリアレジン

あと、軸穴は 1.10mm で出したものを使ったのだけど、最終的にレジンで複製したものだと、かなり緩々の軸穴になってしまった。型取りには 1.05mm ぐらいが良さそうだ。


2.5.3月中にもう一つ!


MJF の 20% オフキャンペーンは、最初は3月だけだったので、駆け込みで 2u 親指キーキャップを作って発注してみた。(実際は、4月もキャンペーン継続になった。)

KeyV2 では、2u 以上だと、スタビライザー用の軸も出るようだ。スタビライザーの間隔はちょうど 12mm になっている模様。

普段使い用に実用品として駆け込み発注(2uは右奥)

でも写真撮るの忘れていた・・・。キーキャップ自体は職場のキーボードに付いていて、ただいま新型コロナのリモートワーク中なので、実物が手元にない・・・。


3.それなら塗装無しナイロンで!


そして、諦め切れない型取り用キーキャップ。いやしかし、DMM.make で出したモデルなら、複製に耐えうるだろうと思って始めたのに、まさか塗装でこけるとは・・・。

う〜ん、それなら次は、塗装無しを試そう!

と言うことで、より安価のナイロン素材を試してみた。型取りにしか使わないのなら、軽い素材で出しても問題ないしね。

こちらの素材での軸の出方も分からないので、1.05mm から 1.12mm まで、0.01mm 刻みで8バリエーション作ってみる。刻印はドットとコロンで点の数を入れてみた。

ナイロン40キー

届いたもの。

キートップに積層痕・・・。

キートップに積層痕がある?!

ガツカリ・・・(よく調べてから注文しようね)

振り出しに戻る。

キーキャップ自体は軽い感じで PA12GB のような重厚感はない。だけど、とりあえず普段使いして、高さや傾きを確認するのには使えそう、といった感じ。

軸穴サイズについては、1.05mm、1.06mm、1.07mm の辺りはきつくて入らない。1.08mm から使える感じだった。

MJF ほどのトキメキは無かったので、早々に次へ・・・。


4.そしてグラファイトへ


さらに他の素材と言っても、やっぱりナイロンと MJF が一番お手頃っぽい。それなら、最後に PA12GB で、塗装無しのナチュラルと、グラファイト磨き、というのを試してみることにした。

シンプルに8キーを、ナチュラルとグラファイト磨きで発注

軸穴は 4.05mm x 1.05mm に設定。

ナチュラル

ナチュラルは、表面がザラザラとしている。あまり型取りには向かなそうだ。

グラファイト磨き

一方のグラファイト磨きは、表面はブラック磨きとあまり変わらない滑らかさ。色はブラックからダークグレーになるけど、自分としてはあまり気にならない。

ただし、軸穴の中に鉛筆の粉みたいなもの(これがグラファイト?)が残っていたので、実際に使うには、まず、つまようじとかで軸穴内を掃除した方がよさそうだ。今回のように型取りするならなおさら。

そして、グラファイト磨きの方をシリコンで型取りし、UV レジンで複製してみた。

シリコン型の硬化後

太陽光で硬化中〜

硬化完了〜

右手分量産完了〜

感想


グラファイトでも、多少の黒い粉がシリコン型に入り込む。それでもブラックの塗装が移り込む度合いよりはかなりましだった。あらかじめキーキャップにシリコン離型剤を塗っておくと、グラファイトの入り込みがより少ない。また、同じキーキャップで複数回型取りすれば、2回目以降はより入り込みが減った。

あと実は、毎回キーキャップの高さとか角度を微妙に調整していたのだけど、今回の最後のを使ってみると、最上列はもう少し高めにして、角度も急にした方が指が届きやすくて押しやすそうだと分かった。

しかし、カチャカチャいわずに、コトコトした感じの、

この重めの打鍵感と打鍵音、よき。






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